井上 萬二Manji Inoue
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ギャラリー一番館
からのご紹介 - 陶歴・プロフィール
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井上萬二先生は、日本を代表する白磁陶芸の第一人者として長年にわたり高い評価を受けてきた陶芸家です。有田焼の伝統的な背景を持ちながら、白磁の「形そのものの美しさ」を追求し、ろくろ技術・造形美・質感において極めて高い完成度を示した作家として知られています。1995年には重要無形文化財「白磁」保持者(人間国宝)に認定され、その作品と技術は国内外で広く評価されています。
作家としての歩みと背景
井上萬二先生は1929年、佐賀県有田町の陶磁器の伝統家に生まれました。
若年期には有田を代表する伝統工芸の技をしっかりと学び、14代酒井田柿右衛門や奥川忠右衛門など、当時の名匠たちのもとで修行を重ねています。特に奥川忠右衛門からは白磁制作とろくろ技術を直接学び、基礎を築いたことがその後の方向性に大きな影響を与えたとされています。
その後は県立有田窯業試験場での研究・制作活動を経て、1971年に自身の窯を主宰。白磁に専念しながらも、国内外での講演や展覧会を重ね、日本の伝統技術の普及・発展にも尽力しています。
世の中からの評価 白磁の探求者としての地位
井上先生の評価は極めて高く、日本国内のみならず海外の美術館や展覧会でもその作品が紹介されてきました。
・人間国宝(重要無形文化財保持者)として認定(1995年)され、白磁制作技術の最高峰と評価されています。
・紫綬褒章など数々の国からの栄誉ある表彰を受けています。
・作品は東京国立近代美術館、ミネアポリス美術館、イェール大学美術館など国内外の主要な美術館コレクションにも収蔵され、国際的にも高く評価されています。これらの実績は、井上先生が単に優れた職人であるだけでなく、日本の伝統的陶芸文化を世界に広めた立役者の一人であることを裏付けています。
作風の個性 白磁に宿る「純粋な美」
井上先生の作品は、白磁の純白の色と滑らかな造形を最大限に生かしたものが中心となっています。
白磁は透明感のある白が特徴であり、装飾を極力排したシンプルな表現の中に静的な美しさと気品を宿す難易度の高い技法です。これには、「形のバランス」「釉薬の均一さ」「焼成時の歪みの無さ」など、ろくろ・釉掛け・焼成における高度な技術が必要とされます。
井上先生は、形そのものをデザインとして捉え、装飾ではなく「造形美そのもの」で見る人を魅了する作品を作り続けました。単純に見える白磁にもかかわらず、表面の滑らかさやカーブの連なりに見る者を引き込む深い魅力があります。
また、長年にわたり白磁のみを追求した結果、生まれる「静かでありながら深い存在感」は、世界のコレクターや美術館関係者からも高い評価を受けています。
技術的な特長 究極の完成度を求める造形
井上先生の技術評価で特に重要視されているのが、ろくろ技術の卓越さと白磁の仕上げにかける集中力です。
白磁の制作では、わずかな歪みや釉薬のムラが致命的な欠点となってしまうほど、許容される誤差が極めて小さいものです。井上先生はこの極限に近い精度を、長年にわたって積み上げた技術で実現しました。
そのため、大型の壺や花入などの存在感のある作品でありながら、造形のバランスが乱れることなく滑らかなラインで仕上がっているのが特徴です。これは単に造形の美しさだけでなく、焼成時に形が崩れやすい白磁でそれを制御する技術力を物語っています。
一貫して「形の完成度そのものが作品の価値」という哲学を持ち続けたことが、井上先生の作品の評価を高めています。
生活と文化への影響
井上先生は、単に優れた作品を作るだけでなく、次世代への技術継承や国際的な陶芸文化の発信者としても重要な役割を果たしてきました。
アメリカ・ヨーロッパなどで講演や制作指導を行い、日本の白磁技術を伝えた経験もあり、多くの陶芸家がその技と精神を受け継いでいます。
このように、井上先生の存在は「作家個人の評価」にとどまらず、日本伝統工芸全体の価値向上や国際的な認知拡大に貢献しているといえます。 -
【プロフィール】
生年 1929年
窯元 井上萬二窯
師匠 酒井田柿右衛門(十四代)、奥川忠右衛門
【陶歴】
1929 佐賀県西松浦郡有田町に生まれる
1945頃 十四代 酒井田柿右衛門、奥川忠右衛門に師事し、白磁制作を学ぶ
1958 佐賀県展にて入賞(以降、知事賞・美術協会賞など受賞)
1963 一水会陶芸部にて連続入選、一水会賞・会員優賞受賞
1967 九州山口陶磁展 文部大臣奨励賞受賞
1968 第15回 日本伝統工芸展 初入選
1969 米国ペンシルバニア州立大学 美術学科にて作陶指導(派遣教授)
1971 有田町にて井上萬二窯を築窯、独立
1977 労働大臣表彰「現代の名工」受賞
1987 第34回 日本伝統工芸展 文部大臣賞受賞
1995 重要無形文化財「白磁」保持者(人間国宝)に認定
1997 紫綬褒章受章
2003 旭日中綬章受章
現在 日本工芸会参与、有田陶芸協会長