“唐津白磁”とは|白磁なのに、温かい。唐津焼の土味が生んだ魅力

ひと目見た瞬間、
「白磁なのに、温かく柔らかい」
そう感じさせる器があります。
唐津白磁とは、
唐津焼の土味や揺らぎを残したまま焼き上げられる、
柔らかな表情をもつ磁器です。
有田白磁のような均質な白とも李朝白磁の写しとも異なる、
唐津という土地で生まれたもうひとつの白磁。
ろくろ目が残り薪窯の火の力で釉薬がわずかに流れ、 器の輪郭にはほんの少しの歪みが宿ります。その未完成さ、柔らかさ、歪みこそが、現代の陶芸家や焼き物ファンを惹きつける理由になりました。
本記事では、唐津白磁の歴史的背景から、現代作家による再解釈された作品についてご紹介いたします。
李朝と有田の間にあった、初期の白い器
日本で磁器が生まれた場所として、最もよく知られているのは有田です。
1616年、有田・泉山で陶石が発見され、日本初の本格的な磁器生産が始まった──
多くの人が、そうした歴史を思い浮かべるでしょう。


しかし有田焼が始まる以前、唐津やその周辺──伊万里などでは、陶器と磁器の中間のような白い焼き物が焼かれていた形跡が見つかっています。
李朝の白磁は、決して工業製品のように整った器ではありません。
歪みがあり、揺らぎがあり、完全ではない。
けれど、そのアンバランスさの中に、深い美があります。
唐津白磁は、まさにその精神と響き合っています。
有田焼のようなシンメトリーで端正に作られた完全な磁器ではない。
けれど、明らかに「白」を目指した器。
土の気配を残した、やわらかな唐津の土で作られた白磁です。


唐津では当時、磁器に不可欠な「陶石」がなかなか見つかりませんでした。
そのため有田焼のような硬く、白く、完成された磁器をすぐに作ることはできなかったのです。
これはあくまで仮説ではありますが、朝鮮から渡来した陶工たちが磁器の材料を求めながら、代替となる土や配合で白い器を焼いていたと考えると不思議ではありません。
「唐津白磁」という名前が示すもの
30年ほど前まで、唐津の作家で白磁に本格的に取り組む人はほとんどいませんでした。
素材の難しさ、工程の複雑さ、そして何より「唐津で磁器をやる意味があるのか」という問い。かつては「磁器は、有田のように綺麗でなければならない」と考えられてきました。
しかし現在、唐津の陶芸家たちが唐津白磁に本気で取り組み始めています。
彼らが目指しているのは、有田白磁の再現ではありません。
綺麗でなくてもいい磁器。
味わいとしての白磁。
という価値観が、唐津の作家たちの間で芽生えています。
唐津には、磁器に適した陶石が潤沢にあるわけではありません。
多くの作家は天草陶石などを用いながら、唐津の土とブレンドし日々試行錯誤を重ねています。
これは写しではありません。
むしろ、新しいジャンルと呼んでいい表現です。
GALLERY一番館 店主・坂本は、こうした背景を踏まえ、
この時代に唐津で焼かれていたであろう白い器を、「唐津白磁」と呼んでいいのではないかと考えています。
隆太窯の中里 隆氏の作品にも「唐津南蛮」という名称があります。これは種子島で行われていた焼締技法を唐津に持ち込み、“唐津で生まれた南蛮焼”として再解釈したものです。
唐津白磁の命名は、この唐津南蛮を名付けた小山富士夫氏と同じ発想で、
唐津で焼かれた白磁は、唐津白磁でいい。
薪窯で焼かれ、ろくろ目が残り、釉薬がわずかに垂れ、形も完全なシンメトリーではない。
でも確かに白を志向し、唐津焼的な感覚でつくられた磁器です。
朝鮮半島から渡来した技術。
唐津で芽生え、有田で花開いた磁器。
そして、再び唐津で問い直される「白」。
その挑戦は、いまも現在進行形で続いています。
唐津白磁を制作する陶芸家
竹花正弘 Masahiro Takehana(浪瀬窯)
竹花正弘氏は、「余計な装飾や作為的な要素をそぎ落とし、シンプルで長く使える器を作りたい」という考えを持ち、古唐津のような作為がない静かな佇まいをまとった美しさを追求。
薪を使った登り窯での焼成に強いこだわりを持ち、白磁という焼成条件に非常に敏感な素材で品質が落ちるリスクがありながら、薪特有の豊かな炎の表情と変化を作品に取り入れ自然な表情を活かして独自の色調や質感を引き出しています。
丸田 宗一廊 Soichiro Maruta(内田皿山窯)
唐津焼を代表する陶芸家・丸田宗彦氏を父に、また「黒牟田焼」を通して民芸運動の思想を体現した丸田正美氏を祖父にもつ丸田宗一廊氏。民芸・唐津・現代という三つの文脈を受け継ぎながら、自身の美意識で焼き物に向き合い、現在は磁器作品を中心に制作に取り組まれています。
最大の特長は素材作りから自ら行っているという点。宗一廊氏は自ら山に入り磁器の原料となる陶石を採掘し、その石を砕き手作業で精製して土に仕立てるという現代の陶芸界でも非常に稀な技術から、素材への深いこだわりとものづくりの原点から美を追求する姿勢が現れています。
石井 義久 Yshihisa Ishii (義久窯)
古唐津を追求する師・矢野直人氏のもとで韓国や国内各地で焼き物の調査を行いながら技術を磨き、2018年に独立した若手の唐津焼陶芸家。古唐津や桃山期・江戸初期の技法に強く傾倒しました。砂岩や石を用いた原料づくり、古窯跡での焼成といった伝統的手法を受け継ぎつつ、磁器の制作にも挑戦しています。
素朴な風合いの中に、土の質感、釉薬、焼成温度など細部まで計算された歴史的な技法と現代的感性の融合が感じられます。
作品と出会う展示会
本記事でご紹介した作家たちの作品は、
GALLERY一番館にて陶芸家たちが毎年開催する展示会で実際にご覧いただけます。
器を手に取り、在廊する陶芸家ご本人から話を聞きながら、
ぜひ唐津白磁の表情や背景に触れてください。
展示会の最新情報は、当サイトの特集記事または公式SNSにて随時更新中です。