矢野 直人Yano Naoto

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  • 陶歴・プロフィール
  • 唐津若手の中で今もっとも注目を集める作家が矢野直人氏です。1976年生まれの若手ながら、朝鮮唐津の 花入、絵唐津や黒唐津の壺、皮鯨、斑唐津のぐい呑、食器など桃山の古唐津を彷彿させる多彩な作品を作陶されています。

    作陶への歩み

    30歳から始めた氏の作陶は長いとは言えませんが、もともとは高校時代に1年間の交換留学を経て計5年間をアメリカで過ごし油絵などを学ぶところから氏の美術のキャリアはスタートしたと言ってもいいかもしれません。絵画の勉強をし帰国後、偶然にも出会った古唐津の茶碗に心を奪われたといいます。それまでの自分のイメージの中だけの唐津焼とは一線を画すその魅力に引き込まれ陶芸家を志すようになったのです。
    有田の窯業学校で陶芸の基礎を一から学び、地元の古唐津研究会などに積極的に参加し諸先輩作家に教えを乞いながら地道に研究を重ねました。氏の父も陶芸家でしたが、父の下で長年修業したわけでもなく、他の作家に弟子入りすることもありませんでした。独学ゆえに、ある一定の枠にとらわれることなく自由に作陶を始めた氏の作品は、ひとことで言うと原点回帰的な作品が多いように思われます。

    地道な研究と原点回帰

    矢野氏などの30代の作家のひとつ上の世代。今では中堅作家と言われる作家達が、釉薬共に前衛的で新しい方向性の唐津を打ち出したことと対照的に、中里無庵の唐津第一世代、逢庵、重利、隆などの第二世代に作風が若干戻りつつあるように思えます。これはもちろん、中里無庵以降、すべての唐津の世代の技術を集約しつつあるということで、矢野氏の中で多くの諸先輩作家の技術を取り入れ、自身なりの消化の仕方をしているようです。この作品はこの作家のあの技法を用いている、ということは見て取れますが、それは今の時代に合った矢野氏の唐津なのであって、単に模倣したものとは異なります。荒々しい朝鮮唐津、繊細な山瀬の斑唐津、李朝を思わせる面取りされた黒唐津の壺など作り出す作品はとても多彩です。

    古い技法と現代の感覚

    唐津の向付は桃山時代の古いこがらつの質感があり、特に釉調は非常に古唐津に近いものです。これは使われない可能性もありますが、釉薬が下の方まで十分に使用されておらず、土の部分が下の方の粘土部分と比率として多く見えています。

    通常の焼き方ではもう少しカーブになっている部分まで釉薬をかけるのが一般的ですが、わざと上の方で釉薬をかけ、古いものの若干の出来損ないのような部分を再現しようとしています。これがちょっと逆にモダンな感じがし、洒落た印象を与える。この微妙なニュアンスが、品物が他と圧倒的に異なるわけではなく微妙な違いがありつつ、ろくろの線や形の見え方において独自性を感じさせるのです。 焼き物に詳しくない人には理解され難い部分かもしれませんが、料理屋などでも高く評価されています。

    同世代の作家と比較して、矢野さんがなぜこれほど売れているかを言葉で説明するのは難しいですが、一つは古いものに対する理解が深く、それを再現する能力が高いことが挙げられます。焼き物の歴史に興味を持ったお客様や料理屋さんの多くもその点から評価されているのです。最近では料理屋さんが焼き物に興味を持つ方が増え、20〜30年前は有田の食器が主流でしたが、今ではお寿司屋さんや和食の店でもこういった食器が使われています。

    魅了され続ける矢野氏の世界

    個展の初日には多くの人が列を作り、こぞって矢野氏の作品を選んでいます。これも現代人の好みにあう唐津が作れている証拠なのではないかと感じています。これからまだまだ成長を期待できる作家であり、広い受け皿をもった作家です。

    百道浜のギャラリー一番館で初めての展覧会が開かれ、矢野直人さんと村山健太郎さんによる二人展が実現しました。私はこの一番館の展覧会が初めてであり、そのきっかけは佐賀大学唐津プロジェクトに由来します。このプロジェクトは若手作家が唐津焼をどのようにしてブランディングできるかを模索する佐賀県の試みであり、約10-14.5年前の出会いが始まりました。その当時、多くの若手作家が存在したが、中でも矢野直人さんに心惹かれたのです。それ以降、一番館での取り扱いをスタートし、毎年ほぼ例外なく東京での唐津展を開催しています。これにより、展覧会を通じて急速に名前が知られ、唐津を代表する作家の仲間入りを果たしました。料理屋さんからも高い評価を得ています。

    一番館の店主である坂本も、氏に対して非常に深い敬意を抱いています。坂本は59歳で、一方のは47歳。初対面の頃からの極めて純粋な人間性が際立っており、それが彼を人気の作家として輝かせています。矢野直人の成長に共鳴しながら、一番館も今後も更なる発展を遂げることを期待しています。

  • 【プロフィール】
    生年 1976年
    窯元 殿山窯

    【陶歴】
    1976 唐津市に生まれる
    1994 5年間アメリカ留学
    2002 佐賀県立有田窯業大学校卒業
    2003 佐賀県立有田窯業大学校嘱託講師
    2004 自宅 殿山窯(唐津市鎮西町名古屋)にて作陶始める
    2008 韓国 蔚山にて6ヶ月作陶
    2011 GALLERY一番館(福岡)にて「矢野直人 村山健太郎 唐津の新鋭 二人展」
    2012 GALLERY一番館(福岡)にて個展
    2012 GALERIE AZUR 一番館東京店にて個展